「じいちゃんのカメラ」

わたしの祖父は平成元年に亡くなった。

今でもその夜のことを鮮明に覚えている。

夜中の、あれは二時か三時頃だったか。
ヂリリン、ヂリリンと黒電話がなった。

母親が電話に出る。
みんなが起きてあわててどこかへ車で出かけていった。

家にいるのはわたしと妹と曾祖母。
嫌な感じがして、わたしは曾祖母と妹が寝ている部屋にいった。
眠ろうと思っても眠れなかったのを覚えている。

その日祖父は温泉で亡くなった。
酔ったまま温泉に入ったのが悪かったらしい。


お葬式も終わった頃だったろうか。
わたしは夢を見た。

祖父が温泉から帰ってきてみんなにお土産をわたしていた。

「じいちゃんおら(わたし)には?」
「おめさば、このカメラけるじゃ(お前にはこのカメラをあげる)」

新しいもの好きだった祖父か使っていたカメラ。

言葉も覚えているし、どこに祖父が立ってこの会話をしたかもはっきり覚えている。

しいちゃん子だったし、また私のことをとてもかわいがって面倒を見てくれたじいちゃん。

たった11年間しか一緒にいれなかったけど、じいちゃんとの思い出はいっぱいある。

春にはふきのとうを探しに行ったよね。
五月にはしょうぶをとりにいった。
稲刈りについていって、田んぼで遊んだ。
冬になると雪山を作って、そりで遊べるようにしてくれた。

今、じいちゃんと話したい。

何で、涙が出るのかわからない。

わたしはこれから多くの別れを経験しなければならないだろう。

しかし、その覚悟は、まだできていない。

いや、一生できないだろうな。

わたしはじいちゃんのカメラを持ち続けることによって、じいちゃんがわたしと一緒にいることを信じて疑わない。

姿が見えないだけで、じいちゃんはわたしと共にある。

それが、わたしにカメラをあげると言ったじいちゃんの言いたかった事だと、わたしは思っている。

いつもお前のことを思っているよ、と。